レーザ診断で環境にやさしいロケットの打ち上げを目指す

CARSレーザ分光により類のない詳細さで燃焼を測定する

2023年3月23日、Coherent

自動車業界がガソリン車やディーゼル車の燃費を向上させ、環境負荷の低減を図ってきたことを私たちは知っています。また、発電会社が温室効果ガス(GHG)排出量を削減する方法として、二酸化炭素の回収や水素の燃焼を検討していることをご覧になった方もいるかもしれません。しかし、成長著しい宇宙ロケット打ち上げ産業でもまた、推進効率を高め、有害な排出物を抑えたクリーンなロケットエンジンに取り組んでいることをご存じでしたか? 

宇宙への打ち上げが盛んに行われるようになり、それが重要であるという認識が広まっています。具体的には、地球低軌道(LEO)に大量の人工衛星を打ち上げようとする動きが、官民を問わず活発化しています。これらの衛星(衛星コンステレーション)の主な目的は、通信インフラの改善と拡張にあります。また、他のグループは、天候の追跡から交通の監視まで、さまざまな種類の画像やセンシングデータを収集する衛星コンステレーションを計画しています。

 

CARSによる燃焼分析

エンジニアたちは、急速に成長する商用宇宙機打ち上げ産業の大気への影響を最小限に抑えるため、より効率的な推進システムを目指しています。

 

もちろん、ロケットエンジンなどの性能を向上させるには、その内部で何が起こっているのかを詳しく知ることが必要です。ルレオ工科大学(スウェーデン)のキルナ宇宙キャンパスでは、最近この目的のためにアレクシス・ボーリン博士を採用しました。彼はここでエスレンジ宇宙センターとの共同研究も行っています。

ボーリン博士は、レーザ診断によるさまざまな燃焼システムのモニタリングのリーダーとして知られており、特にCoherent反ストークスラマン散乱(CARS)分光という少し複雑な技術を使用しています。彼は次のように述べています。「レーザ診断法には、反応流の中で、測定対象領域を乱すことなく量を測定できる利点があり、有用な情報を優れた空間・時間分解能で取得することができます。私の研究では、CARSイメージングを使って、実効温度と、N2、O2、H2、CH4、C3H8、CO2、H2Oなど、いくつかの異なる化学物質の濃度を、できるだけ高い精度と正確さでマッピングすることに注力しています」。

 

CARSによる燃焼分析

CARSは、レーザ光を用いて、単純な水素炎から複雑なロケットエンジンまでの燃焼源を解析することができます。画像引用元:アレクシス・ボーリン博士。

 

CARSは、ウルトラファーストレーザを用いてシステムの化学的な詳細を遠隔探査し画像化する、科学研究所ではよく知られている技術です。すでに、分子の構造から生きた組織の3D画像まで見ることができるようになりました。しかし、ロケットエンジンの課題は、一般的な実験室に持ち込むことができないことです。そのため、ボーリン博士のような科学者は、CARSをロケットエンジンに持ち込む方法を探す必要がありました。複数のウルトラファーストレーザコンポーネントを使用するCARSの複雑さを考えると、それは決して容易なことではなく、2つまたは3つの別々のレーザ波長、およびすべてのビームを精密に調整するための多くの光学部品が必要です。

デルフト工科大学(オランダ)ボーリン博士の以前の研究室で、博士と彼の学生が、すべてのビームが単一の産業グレードのウルトラファーストレーザ、特に当社のAstrella「ワンボックス」フェムト秒増幅器に基づいているCARS分析装置を製作したことから、当社はボーリン博士をよく知っています。この増幅器はパルスエネルギーが高い(数ミリジュール)ため、出力を分割し、フェムト秒出力の一部をそのままレーザ光の1つとして使用することができました。パルスエネルギーの他の部分は、第2高調波バンド幅圧縮器(SHBC)と呼ばれる装置で、ピコ秒に変換可能な持続時間のパルスを駆動するために使用されます。これを基本的なCARSエンジンとして、ボーリン博士と同僚は燃焼炎やプラズマのさまざまな研究に成功しました。 

ボーリン博士はここ数年、CARS測定技術に革新と改良を加えてきました。最も重要なのは、彼のCARSシステムが、従来のアプローチと比較して安定し、比較的シンプルであることです。ボーリン博士は次のように述べています。「持ち込み可能な小型のエンジンでしか使用できないような研究室に束縛される手法ではなく、必要に応じて燃焼現場に持ち込める汎用性の高い手法を求めていました」 この注力により、彼は最近ルレオ工科大学のキルナ宇宙キャンパスに採用され、Astrellaは再び彼の強力な診断装置の心臓部として機能するに至っています。

したがって、CARS分光を使って燃焼を調べることは、「本当にロケット科学である」と言えるでしょう。

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