EV市場の活性化

Coherent製のSiCを搭載したパワーエレクトロニクスによって、EV航続距離の延長、充電時間の短縮、コストの削減が実現され、市場が再活性化しています。

 

2024年6月27日、Coherent

電気自動車(EV)の販売が失速しています。主な理由は、充電に時間がかかり、従来のガソリン車と比べて購入価格が高いことに消費者が抵抗を感じているためです。こうした課題に対処するため、各EVメーカーは、他のさまざまな利点が得られる800 Vシステムへの移行を進めています。

しかし、800 Vに移行するには、単にバッテリーの電圧を上げるだけでは済みません。実際、800 Vシステムでは、パワーエレクトロニクスの要件がかなり変わってきます。そのため、高電圧パワーエレクトロニクスで従来使われていたケイ素に代わる半導体材料として、炭化ケイ素(SiC)が登場しました。炭化ケイ素は、旧技術が直面している障害を回避できるからです。炭化ケイ素を使う理由とその方法を見てみましょう。

 

高電圧化、高性能化

EVを効率化し、消費者へのアピールを高めるため、各自動車メーカーは、800 Vの電気システムの採用に力を入れてきました。この高電圧化は、単なる技術の改良ではありません。EVへの電力供給の方法を変える取り組みであり、現在主流となっている400 Vシステムよりも大きな利点が得られます。

800 V技術の主な利点の一つは、充電時間を飛躍的に短縮できることです。電圧を高くすると、より速く車両のバッテリーに電力を供給できるのです。この機能は利便性にとどまらず、一般消費者にEVをより実用的なものにする点で極めて重要です。

さらに、800 VシステムはEV全体のエネルギー効率を高めます。電力、電流、抵抗の関係(電力 = 電流 x 電圧、すなわち電力 = 電流² x 抵抗)から、電圧を上げて電流を下げれば、送電中に熱として失われるエネルギーが減ることがわかります。

また、電流が小さくなれば、車両で使うワイヤーハーネスを軽量化でき、製造コストの削減や車両の軽量化の点でかなりの効果が得られます。車両を軽量化すると、その結果として航続距離が伸びます。ポルシェやアウディ、ジェネシス、ヒュンダイ、起亜などの自動車メーカーが800 Vバッテリーパック搭載の車両をすでに製造しているのには、さまざまな理由があり、上記はその一部にすぎません。

 

800 Vを最大限に活用する

EVで800 Vアーキテクチャーの利点を最大限に引き出すには、重要なイノベーションが必要です。具体的には、この高電圧で最適に動作するようにパワーエレクトロニクスを改良する必要があります。

パワーエレクトロニクスとは、電力を制御および変換するシステムのことを指します。EVのドライブトレーンでは、高電圧が利用されています。通常、バスの電圧は、バッテリー電圧(この場合は800 V)と同じです。

トラクションインバーター(モーターを駆動し、車輪を動かす装置)は、数百kW規模の高出力です。このインバーター技術には、大電流を伝達し、高電圧に耐えられる高効率のスイッチが必要です。800 Vシステムの場合、電圧は2 kV近くに達します。

 

ドローンカメラおよびセンサーポッドモジュール

EVパワートレインを構成する主なパーツ。

 

従来、これらのパワースイッチは、ケイ素上に製造された絶縁ゲート型バイポーラトランジスター(IGBT)が一般的でした。しかし、ケイ素IGBTは、スイッチング周波数が高くなるとうまく機能せず、効率が損なわれ、電圧が1500 Vを超えると動作しなくなります。

解決策となったのが、バンドギャップが広い半導体である炭化ケイ素(SiC)です。SiC金属酸化膜半導体電界効果トランジスター(MOSFET)は、温度許容度、スイッチング速度、効率などの点で、ケイ素を使った部品よりも優れた特性を発揮します。800 V EVシステムのより高い電圧要求に対して、ほぼ理想的な部品です。

 

SiCベースの材料を使用して800 Vの電源モジュールの熱を管理する

ハイパワースイッチとして機能することに加えて、SiCはEVの特に重要な課題の一つである熱管理にも直接対応しています。SiCは、反応結合Si/SiC複合材料(RBSiC)の形で高熱導体として機能します。このため、パワースイッチを搭載するパワーモジュールの熱を効果的に取り除くことができます。また、優れた熱膨張特性、高温での動作、高強度、高強度重量比により、パワーモジュールの理想的なベースプレート材料となっています。

要約すると、発熱を抑えながらより高い電圧と電流を効率的に取り扱うことで、SiC部品は半導体パワースイッチとして、同時に熱管理用の複合材料として800 Vシステムを実現します。これにより、大型でかさばる冷却システムの必要性が減り、車両の重量と複雑さをさらに抑えられるようになりました。Coherentは、SiCウェハエピタキシーを大量生産するための包括的な能力を提供して、この技術的な移行を支援しています。また、SiCベースデバイスの長期的な製造計画と、熱管理ソリューション用の大量の蒸着能力も保有しています。

EVパワートレインの部品のほかにも、Coherentは最先端の車両技術のさまざまな側面に関わっています。当社が車内センシング熱管理自動車用LIDARをどのように改良しているかについて、詳しくご覧ください。