眼鏡から精密レーザ用レンズに至るまで、光学部品の大半は、その表面に性能を高める何らかの薄膜コーティングが施されています。このようなコーティングは、眼鏡の煩わしい反射を抑えたり、工業用レーザシステムの出力を向上させたり、フローサイトメーターで特定の波長を選択的に透過して細胞の識別を可能にしたりするのに役立っています。コーティングにより、光学面の機械的耐久性が向上し、洗浄も容易になります。
コーティングの仕組み
薄膜コーティングは、光波間の干渉効果を利用しています。これは、石鹸や油そのものは無色であっても、石鹸の泡や油膜に色が現れるのと同じ現象です。
下図は干渉の仕組みの基本を図で表したものです。コーティングが施されていない場合、ガラス表面は入射光の約4%を反射します。つまり、窓やガラスのレンズを透過する光は92%のみです(表と裏の2つの面があるため)。この光損失により、光学システムのスループットや効率は低下します。また、カメラのレンズのように複数の部品から構成されているものでは、画像のコントラストが低下することもあります。
通常、ガラス光学部品の各表面は、可視光の約4%を反射します。表面に薄いコーティングを施すと第2の反射が生じます。コーティングの厚みや屈折率を操作することで、ほぼ完全に反射を除去するなどさまざまな効果を実現できます。
光学面にコーティングを施すと、コーティングの上からの反射と、コーティングとガラスの境界面での反射という第2の反射が生じます。コーティングの厚さが光の波長の4分の1である場合、図に示すように2つの光線は完全に逆位相になります。2つの波が同じ振幅(材料の屈折率による)の場合、互いに干渉し打ち消し合います。つまり、少なくともその特定の角度と波長では、反射はまったく生じません。これが反射防止(AR)コーティングです。
コーティングは通常、2つ以上の異なる材料からなる多数の層を含んでいます。これらの層はさまざまな効果を生み出すように配置されており、そのすべてが先ほど説明した光波干渉の基本的なメカニズムを利用しています。コーティングのほとんどは以下のように分類できます。
コーティング機能 |
説明 |
反射防止(AR) |
不要な表面反射を抑えるために使用される。単一の波長または広い波長域で動作可能。 |
高反射(HR) |
ミラーコーティングは表面の反射率を高める。単一の波長または広い波長域で動作可能。 |
部分反射 |
ビームスプリッターは入射光の一部を透過し、残りを反射させる。入射角が0度でない場合に使われることが多い。 |
ショートパス/ロングパス |
短波長側を透過し、長波長側を反射する(またはその逆)。入射角が0度でない場合に使われることが多い。 |
バンドパス |
中心値付近の波長域を透過し、それ以外はすべて遮断する。 |
偏光 |
入射光を垂直偏光成分に分離し、通常は一方を透過し、他方を反射する。 |
コーティングは光学特性を変える以外の機能を果たすこともあります。たとえば、透明導電性コーティングはタッチスクリーンで広く使用され、電子機能を提供しています。また、水をはじく疎水性コーティングと油をはじく疎油性コーティングも、タッチスクリーンによく利用されます。光学部品の機械的耐久性を高めるために、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)やサファイア薄膜などの材料が採用されています。
コーティングの製造方法
コーティングの製造には、誘電体や金属の薄層(通常、厚さ約100ナノメートルから数ミクロン)をターゲット材料に何層も重ねる技術が必要です。ほぼすべてのコーティングで、各層の厚さと屈折率を正確に制御することが重要です。また、部品全体でこれらの特性が均一であることも重要です。
製造業者にとって、各層の引張応力や圧縮応力の量などの機械的特性も制御できることが理想的です。これは、耐久性に優れ、基材との密着性が高い最終製品を生み出すために不可欠です。
最も一般的に使用されるコーティング方法は、さまざまな種類の物理蒸着法(PVD)と化学蒸着法(CVD)です。たとえば、最も古くから広く使用されているPVD技術の1つは蒸着コーティングです。この方法では光学部品を高真空チャンバー内に配置します。コーティング材料は、抵抗加熱または電子ビーム照射によって蒸発するまで加熱されます。この蒸気は真空チャンバーを満たし、光学面で再凝縮してコーティング層を形成します。
コーティング技術にはそれぞれ、独自の能力やメリット、デメリットがあります。Coherentはそれぞれのユースケースに最適な結果を提供するために、利用可能な主な方法をほぼすべて採用しています。以下の表はさまざまな蒸着法の主要特性を比較したものです。
方法 |
蒸発 |
イオンアシスト蒸着による蒸発 |
イオンビームスパッタリング |
マグネトロンスパッタリング |
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波長範囲 |
<266 nm |
+ |
– |
O |
– |
266nm~10µm |
+ |
+ |
+ |
+ |
|
>5 µm |
+ |
– |
O |
– |
|
コスト |
+ |
O |
O |
+ |
|
機械的耐久性・環境耐久性 |
– |
O |
+ |
O |
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散乱率・吸収率 |
– |
O |
+ |
O |
|
レーザ損傷 |
+ |
+ |
+ |
+ |
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成膜精度 |
– |
O |
+ |
O |
Coherentのコーティング – 範囲、品質、量
高品質の光学コーティングを一貫して、特に大量に生産するには、成膜チャンバーだけでは不十分です。まずはコーティング設計です。望ましい光学性能を実現し、かつ機械的耐久性やレーザ損傷しきい値、コスト、その他の特性などの要件を満たす材料と層厚の組み合わせを決定します。
次に、通常は各種の工程制御装置組込みおよび計測装置を用いて、成膜中の層特性を制御・測定します。これにより、コーティング設計が光学部品に忠実に再現されます。完成品の光学特性や機械的特性を測定するために、さまざまな計測装置を使用します。
Coherentは垂直統合型の光学メーカーであるため、ほぼすべての規模の高品質光学コーティングを提供できる比類なき企業となっています。基板材料の製造、コンポーネントの製造、コーティングの設計・製造、さらにはアセンブリの製造まで、すべてを自社で行っています。そして、これらすべての分野において深い知識と経験を持っています。
また、Coherentはコンポーネントの性能をあらゆる側面から検証するテスト装置も備えています。実際、当社では各製造過程での品質保証(QA)に加え、製造するすべての光学部品の100%検査も実施しています。
これらすべての要素により、原材料から完成品に至るまでの全工程を制御し、製品のあらゆる光学・機械的仕様などを保証しています。そしてそれは、安全なサプライチェーンを提供し、お客様のリスクと不確実性を最小限に抑えることにつながります。また、Coherentはさまざまな種類の生産設備を十分に備えており、必要に応じてあらゆる種類のコーティングを大量に製造することもできます。
ハードコーティングのメリット
当社は特に材料に関して幅広い能力を有しているため、新しいコーティングの開発においても業界をリードしています。その特筆すべき例は、主に赤外線光学部品を対象とした当社独自のダイヤモンドオーバーコート(DOC)です。
赤外線光学部品は、家庭用電化製品、医療機器、工業用レーザシステム、軍事・航空宇宙用の撮像装置など、幅広い用途で使用されています。これらすべての分野において、光学性能に対する需要は絶えず高まっています。これらの用途のほとんどに耐久性と信頼性が求められますが、特にコーティングを傷つけることなく光学部品の表面を繰り返し洗浄できる必要があります。
これまで選択肢は、高性能だが耐久性に劣る従来のコーティングか、耐久性は優れているが最先端の性能は得られないダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングのいずれかでした。具体的には、DLC反射防止コーティングは一般的に単層設計であり、光透過率を部分的にしか向上させることができず、ゲルマニウムやシリコンなどの特定の基板材料に限定されます。
DOCはこの妥協点を解消し、従来の蒸着コーティングの優れた光学性能とCVDダイヤモンドフィルムの比類ない耐久性の両方を実現します。DOCの製造には、蒸着法とCVDの両方を単一工程で組み合わせたカスタム設計のコーティングシステムを利用します。
DOCの製造には特殊な装置が必要ですが、当社の技術のほとんどはコーティング設計にあります。具体的には、同設計ではダイヤモンドライクカーボン膜の高い屈折率および高い機械的応力と、下地のPVD材料とを一致させなければなりません。
DOCの用途は多岐にわたります。コーティングの堅牢性を示す好例は、工業用レーザ加工の中でもプリント回路基板に高速ドリリングで大量の穴(ビア)をあける加工です。レーザ集束光学部品を保護するウィンドウには、ドリリング加工で生じる破片が飛散します。ダイヤモンドコーティングされた保護ウィンドウを使用すると、洗浄頻度を減らせます。また、光学特性を維持したまま、積極的な洗浄で銅やその他の微粒子を除去できるようになるため、保護ウィンドウの寿命が大幅に延び、ウィンドウの交換コストとダウンタイムを削減できます。
さらなるユースケースは、光学的グルコース測定システムの最終レンズ面です。この場合、最終的な光学部品は患者やサンプルと接触するため、定期的な洗浄が必要となります。ここでも、DOCを使用すると光学部品を傷つけることなく洗浄できます。
DOCはコーティング技術の飛躍的な進歩を象徴するものです。ただし、これはCoherentが製造するさまざまな種類のコーティングの1つにすぎません。当社のコーティング能力についてはこちらをご覧ください。