誕生から60年、今なお活躍し続けるCO₂レーザ

最も古いレーザ技術の1つであるCO₂レーザは、その性能、信頼性、価値を高める継続的なイノベーションに支えられて、時代に適応し続けています。

2025年1月20日 Coherent

CoherentがCO₂レーザのパイオニアだったことをご存じでしょうか。当社は1966年に、最初の商用製品を発表しました。それは、CO₂レーザがベル研究所で初めて発明された年のわずか2年後のことでした。CO₂レーザは瞬く間に、自動車製造、半導体、電気・電子機器製造といった多様な業界にわたる、溶接、切断、マーキング、エングレービングの用途に対して、最も広く使われる手段としての地位を確立しました。

CO₂レーザは、レガシー技術とみなされることがあります。しかし実際には、誕生61年目に突入したCO₂レーザが引退に向かう兆しはまったく見られません。むしろ、既存と新規の両方の用途において、その利用はさらに拡大しています。

ファイバーレーザが2010年頃に商業的に普及した後、金属加工におけるキロワット級CO₂レーザの優位性は低下しましたが、非金属材料に対する多くの用途で、低出力と高出力の両方のCO₂レーザが使われ続けています。

  

CO₂レーザの得意分野

CO₂レーザがレーザの勢力図に名を連ね続ける理由の1つは、基本的な物理特性にあります。CO₂レーザは約10 µmの波長を出力しますが、この波長は、プラスチック、木材などの有機物、段ボールや皮革、天然および合成繊維、ゴム、複合材料、ガラスセラミックスなど、多くの異なる材料に強く吸収されます。逆に、これらの材料のほぼすべてが、ファイバーレーザからの波長1 µmの光をあまり吸収しません。

これらの材料に加えて水も、CO₂レーザの光を強く吸収するため、CO₂レーザは外科用途に特に有効です。ほとんどの組織だけでなく骨にさえも、かなりの量の水分が含まれています。

波長10 µmのレーザ光をあまり吸収しない物質は何でしょうか。それは、導電性金属です。Coherentが、銅やアルミニウムなどの金属基板で高性能レーザミラーやその他の反射光学部品を製造するのは、そのためです。

 

より良いCO₂レーザ技術

CO₂レーザが時代に適応し続けるもう1つの理由は、技術が継続的に改良されていることです。それによって今日のCO₂レーザは、前世代のものよりもはるかに効率と信頼性が高く、経済的になっています。

初期世代のマルチ kW CO₂レーザでは、レーザ共振器内のガス、または、共振器を横切るガスの高速フローが利用されていました。これは、それ以前の低出力の「低速フロー」レーザを単にスケールアップしたものでした。しかし、この手法は、運用コスト、システムサイズ、効率、信頼性の観点から見て高額です。

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図1. 左側は、出力調整に優れたスラブレーザ設計で、右側は、低出力用の導波管。どちらのレーザ共振器設計も、優れたモード品質と出力安定性を備えます。

 

Coherentの高出力(1~8 kW)のDCシリーズや、中出力(120~1000 W)のDIAMOND Jシリーズのような、拡散冷却式(diffusion cooled:DC)スラブCO₂レーザの開発は、この技術に革新をもたらしました。この設計では、2枚の大きな平面電極の間にレーザガスを閉じ込め、電極を水冷することで、はるかに効率的に熱を除去します。このシンプルな設計により、ガスの使用量は大きく低減され、ウォールプラグ効率と信頼性は高まりました。今日に至るまで、この技術を使ってマルチ kWのCO₂レーザを製造する企業は当社の他にありません。

高速フローを利用する従来のCO₂レーザと比べた場合のこれらのスラブレーザの最終的なメリットは、サイズがよりコンパクトで、ガス使用量は無視できるほど低く、出力ビーム品質が高くなることです。スラブレーザは、1 kW以下の出力レベルで完全密閉、数 kWで動作する場合は「半密閉」とすることが可能です。これにより、レーザヘッドのサイズが小さくなり、大きなガス貯蔵容器を外部に用意する必要がなくなります。総合的には、組込みが大幅に簡素化され、運用コストと保守コストは大きく削減されます。

CoherentのDIAMOND C/Cxシリーズのような、120 W未満の低出力CO₂レーザに採用されている密閉導波管構造は、何十年も前から使われています。しかし、これらのレーザは、設計と動作のあらゆる側面に継続的に加えられる漸進的な改良によって、進化し続けています。DIAMOND C/Cxシリーズのレーザが現在、かつてないほどの信頼性、性能、安定性、動作寿命を備える理由は、そこにあります。

DIAMOND C/CxシリーズのCO₂レーザの機能は、変調器に加えて共振器内のQスイッチまでをも直接搭載することにより、拡張されています。これによってこれらのレーザは、特にフラットパネルディスプレイやマイクロエレクトロニクス製造における、より要件が厳しくさらに高い精度が求められる用途に、対応することができます。

 

CO₂レーザの多彩なアプリケーション

CO₂レーザのアプリケーションは非常に広範で多岐にわたるため、そのすべてをここに列挙することはできません。以下は、一部の主なアプリケーションの概要を業界別にまとめたものです。

自動車と一般産業
  • エアバッグの切断:CO₂レーザは、エアバッグに使われる、しっかりと織られた丈夫な素材を高精度かつ高速に切断できます。これにより、クリーンなエッジが得られ、エアバッグシステムの安全性と信頼性に不可欠となる、素材の完全性が維持されます。その切断プロセスによって、切断エッジは封止されるため、エアバッグ生地がほつれることはありません。

 

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図2: エアバッグの切断は、レーザの優れたアプリケーションです。レーザは、機械的強度の高い布地を容易に切断し、ほつれが生じないように切断エッジを封止します。

 

  • ダッシュボードのスコアリング:ダッシュボードやエアバッグカバーのスコアリング(衝撃時にエアバッグが破裂するように、素材を意図的に弱める加工)により、エアバッグの機能性を維持しつつ、自動車内装のデザインに自由度を持たせることができます。
  • ポリマー部品の切断:センサーやフォグランプなどのコンポーネントや、複数の車種/オプション向けに細かいカスタマイズが必要となるバンパーなどの量産パーツに対するアプリケーションです。レーザは、柔軟な操作が可能で(穴のパターンを簡単に定義または変更できます)、滑らかで欠陥のない切断エッジを生成します。

 

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図3: CO₂レーザによって、カスタム構造を射出成型バンパーブランクの形状に切断します。

 

  • バスバーのストリッピング:CO₂レーザは、バスバーの絶縁層を溶接前にすばやく効率的に除去することができます。バスバーの両側を同時にストリッピングするために、多くの場合で2つのCO₂レーザがペアで使用されます。

 

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図4: CO₂レーザは、絶縁材料に吸収されますが、その下の銅では反射されるため、絶縁層の除去に適しています。

 

  • チューブやプロファイルの溶接:CO₂レーザは、チューブのシームを連続的に溶接して封止するために、広く利用されます。これは、「プロファイル溶接」の一種です。プロファイル溶接は、接合する部品の輪郭に沿って強固でシームレスな接合部を生成するために一般的に用いられるプロセスです。

 

半導体とエレクトロニクス
  • 切断と穴あけ:CO₂レーザは、プリント回路基板(PCB)の切断(デパネリング)と、穴あけ(この穴を「ビア」と呼びます)に使用されます。CO₂レーザは、低温同時焼成セラミックス(low temperature co-fired ceramics:LTCC)の穴あけも可能です。LTCCは、特にフラッシュRAMなどの薄型多層デバイスを構築する場合に、マイクロエレクトロニクス基板として使用されます。 
  • レーザスパイクアニーリング:高出力CO₂レーザは、ウェハアニーリングが可能です。ウェハアニーリングは、IC製造におけるフロントエンド(front end of line:FEOL)の工程の1つです。
  • フラットパネルディスプレイ(FPD):変調QスイッチCO₂レーザは、FPD製造におけるセルと偏光板の切断に必要な優れたエッジ品質を、最小限の熱影響部で生成します。
  • ワイヤストリッピング:レーザは精密な材料除去が可能であるため、細いワイヤから絶縁層を剥がす処理に特に有効です。

 

パッケージング
  • コンバーティング:これは、紙、プラスチック、段ボール、ホイル、フィルムなどを最終的な包装製品に変換するプロセスです。CO₂レーザは、速度、柔軟性、信頼性が高いことから、コンバーティングにおける多くの切断処理に使用されます。材料の吸収特性に合った出力波長を持つCO₂レーザを選択することにより、加工を最適化することができます。Coherentは、9.3 µm、10.2 µm、10.6 µmの波長を出力するCO₂レーザを、この用途向けに提供しています。
  • 段ボール:段ボール包装に対する需要の増加に伴い、段ボール箱製造の効率と柔軟性の向上が求められており、高出力CO₂レーザは、段ボール箱を量産するための高速で効率的で柔軟な技術を提供します。この技術により、出荷する商品にぴったりなサイズの箱を製造する「ボックスオンデマンド」の機能が実現できます。
  • フレキシブル材料のスリット/ミシン目入れ:CO₂レーザは、薄いフィルムやホイルに簡単にミシン目を入れることができ、「イージーオープン」(簡単に開封できる)パッケージの製造に広く使用されています。また、ガス置換包装(modified atmosphere packaging:MAP)にも理想的です。MAPとは、サラダパックやその他の青果物用のプラスチック袋に、小さな穴の列(マイクロパーフォレーション)が開けられているものです。それらの穴によって空気を循環させ、商品の鮮度を長持ちさせることができます。
  • ダイボード切断:大規模なコンバーティング処理では、正確な形状やパターンにパッケージング材料を切断するために、ダイボードを使用する場合が多くあります。ダイボードは、通常は合板や複合材でできた平らな板で、金属切断用のダイ(抜型)が埋め込まれています。CO₂レーザは、テーパーがほとんどない複雑でクリーンな切り込みを作成する精度と能力を備えるため、ダイボードにスロットの切り込みを入れるために広く使用されています。

 

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図5: 厚みのあるダイボードに精密な平行スロットの切り込みを入れます。

 

  • デジタルダイカット:高出力CO₂レーザによる段ボールの直接切断は柔軟性が高く、POS(point-of-sale)ディスプレイや独創的な梱包ソリューションのための少量生産を可能にします。
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図6: 段ボールの直接切断は、ダイボードを必要としない、柔軟性の高いデジタルダイカット方法です。

 

  • キスカット:レーザで、2層材料の下層を残して上層だけを貫通切断します。この技術は、ラベル、シール、ステッカーの製造で、粘着商品を簡単に台紙から剥がせるようにするために一般的に使われています。CO₂レーザによるキスカットは、精度と一貫性が確保されるため、さまざまな形状の粘着商品の量産に理想的です。
  • マーキング:ポリマーやセラミックスなど、パッケージに使われる多くの材料のマーキングを、CO₂レーザによって効率的に行うことができます。

 

繊維
  • 切断:布地、皮革、帆布を、レーザで高速かつ高精度に切断できます。
  • ダメージ加工:レーザは、デニムに使い古したようなダメージ加工を施すための高速かつ制御可能で、環境に配慮した手段です。デニムやその他の布地に、図柄やパターンを施すためにも使用できます。

 

医療
  • 外科:CO₂レーザは、出力波長が水に強く吸収されるため、外科用ツールとして効率的です。特に歯科や口腔外科において、骨や歯のエナメル質や軟組織を切削するために使用されています。
  • 皮膚科:CO₂レーザは、周辺組織に深刻な影響を与えることなく皮膚の薄い層を正確に除去することができます。シワ、イボ、アザ、その他の皮膚疾患の治療に使用されています。

 

以上は、CO₂レーザが今日対応できるアプリケーションのほんの一部です。CO₂レーザは、長波長赤外光の唯一の実用的な光源であり、多くの材料がその光をよく吸収するため、今後も長年にわたって有効なツールであり続けることでしょう。したがって、誕生から60年が経過しましたが、CO₂レーザが現役を退くのはまだかなり先になりそうです。Coherentの高出力/低出力CO₂レーザについて、詳しくはこちらをご覧ください。