レーザは数十年にわたって、距離測定ツールとして使われてきました。早くも1962年には、MITの科学者たちが高出力のルビーレーザパルスを月に照射して、地球からの距離を測定しています。1969年にはアポロ11号の宇宙飛行士が反射鏡アレイを月に残し、リック天文台の天文学者が月までの距離をより正確に測定するためにこれを使用しています。これらの反射鏡は、現在もなお地球上のレーザで使用されています。
現在、マイクロエレクトロニクスの小型化がスマートフォンやフィットネス用のウェアラブル端末をもたらしたように、レーザベースの距離計がハンドヘルド型デバイスに搭載されるようになりました。レーザ式距離計は、数百メートルの範囲でポイントまでの距離を測定できるもので、ゴルフ、アーチェリー、狩猟などのスポーツで使われています。建築、土木工学、製造などの商業用途にも使われます。製造業では、製品を一貫して高精度の基準に従って組み立てていくためにも、レーザによる距離の測定が不可欠となります。
高品質距離計用レーザを構築する
測距システムは通常、半導体レーザまたはファイバーレーザを利用しています。半導体レーザは他のレーザ光源よりも小型、軽量、堅牢で電気効率が高く、一般に低コストであるため、携帯型デバイスやハンドヘルド型デバイスに好んで採用されています。ですが、自動運転車用LIDARシステムによるスキャンからゴルファー用距離計に至るまで、「レーザ測距」に分類できるアプリケーションは多岐にわたっています。そこで使われる半導体レーザの種類もまた、さまざまです。
Coherentは、これらすべてのアプリケーション向けに半導体レーザを製造しています(LIDARシステム用ファイバーレーザも同様)。民生用距離計向けには、この市場が求める性能、コスト、そしてさまざまな実用的特性(重量やバッテリー寿命など)をバランス良く提供できるよう、特別に設計された光源を開発しました。
たとえばCoherent SS905A13-TO-01は、トリプルジャンクション構造を特徴とする905 nmの端面発光半導体レーザです。つまり、3個のレーザエミッタを単一チップ内に密に組み込んで、単一の光源として機能させる仕組みです。
トリプルジャンクション型半導体レーザは、1つのチップ上に3個のレーザエミッタを垂直に積み重ねるものです。レーザは、「トンネルジャンクション」を挟む形で互いに分離されています。各レーザ間でのpn接合の形成を避けるため、この層が必要になります。ただし、電子が量子力学的に「トンネル」を通過して電流を流せるだけの薄さにする必要があります。全体的なレーザ効率はトンネルジャンクションの性能に大きく左右されます。Coherentはこの層における損失を最小限に抑える方法を開発し、卓越した性能を実現しています。
このトリプルジャンクション構成により、同等のサイズと電気特性を備えた従来のシングルジャンクション型半導体レーザと比較して、はるかに高い出力が得られます(ピーク出力最大140 W)。このアプローチでは、密集したレーザ接合部から高熱が発生するため、連続動作や高デューティサイクルのパルス動作には適していません。ですが、距離測定のようにレーザを短時間しか作動させない、短パルス、低デューティサイクルのアプリケーションには最適です。
Coherent SS905A13-TO-01は、距離測定用に設計された(トリプルジャンクション構造を採用したものも含む)通常の半導体レーザを超える利点をいくつも備えています。たとえば、SS905A13-TO-01は競合製品より最大10%も効率性に優れています。これによりバッテリー寿命が延び、製品エンジニアが光源やデバイスの「パッケージング」を考慮する際の自由度が高まります。
さらに、Coherentレーザは温度変化にさらされた際の出力安定性にも優れています。そのため、動作環境が大きく変化するような場合でも、正確で信頼性の高い測定が保証されます。
905 nmである理由
民生用距離計やLIDARシステムの多くは、905 nmまたは1550 nmのいずれかで動作します。Coherentは、これら両方の波長(および他のさまざまな波長)の半導体レーザを製造していますが、距離計について言うなら905 nmがよりコスト効率に優れていると考えています。
その理由の1つが、1550 nmレーザがInPを使用しているのに対し、905 nmレーザーにはGaAsが使われているという点です。InP基板とその製造はGaAsよりも高コストであり、GaAsチップの出力変換効率が45%であるのに対し、InPコンポーネントの効率は10%未満にとどまります。これらの要因により、905 nm半導体の価値は競合製品を上回るものとなっています。
検出器などの905 nmレーザをサポートするコンポーネントは、製品価格に直接影響するコスト面でのさらなるメリットを提供します。なぜなら、905 nmレーザの場合は広く入手可能な(安価な)CMOSシリコン製の検出器を使用できるのに対し、1550 nmレーザではそれよりはるかに高価なInGaAsベースのコンポーネントが必要になるからです。
距離測定は、LIDAR、スマートフォン、VRヘッドセット、建築・建設などの産業市場をターゲットとする民生用デバイスなど、多彩な製品に使われるようになった、数あるレーザベースのセンシング技術の1つに過ぎません。Coherentはこれからも、これらアプリケーションの実用化に求められる価格と性能を兼ね備えたレーザや、各種光電子コンポーネントの開発に尽力します。半導体材料、レーザ、光学部品など各分野で培った能力を独自の形で組み合わせながら、これを実現していきます。
測距アプリケーションにおいてCoherent SS905A13-TO-01が活躍する仕組みをご紹介します。