家電製品における主な傾向として、個人の健康状態をモニタリングするスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスの進化が挙げられます。心拍数のモニタリングから始まった機能には、今や心拍変動(ストレス)や血圧、血中酸素濃度モニタリングが含まれることも多くなりました。筋肉疲労度を評価するために、水分補給量や乳酸のモニタリングも行えるデバイスが開発されています。やがて完全に非侵襲的な血糖値モニタリングが可能となり、糖尿病患者の生活の質が向上するとの説もあります。
これは一体何を意味するのでしょうか。ヘルスモニタリング機能が増えた背景には、2つの需要促進要因があります。
1つめは、潜在的な問題を、重大な症状を引き起こすよりもずっと前に認識・対処できるような、医療の予防/メンテナンス的なアプローチへの要望です。
2つめは、慢性疾患の管理など、より個別化された医療ソリューションを実施するために必要な情報を医師と患者に提供するうえで、バイオセンシングデバイスが担う重要な役割です。
半導体レーザが選ばれる理由
技術的な観点で見た場合、すべてのモニタリングアプリケーションには何らかの光センシング技術が採用されています。乳酸、血糖値、水分補給量のモニタリングなど、前述の新しい高度なアプリケーションはすべて、レーザ光源の特別な特性に基づく光学技術に依存しています。
レーザの種類はどうでしょうか。レーザは、種類に応じて出力、波長、サイズ、コスト、パルス特性、その他のパラメータが大きく異なります。(Coherentではあらゆる種類のレーザを製造しているため、これは間違いありません)。
ウェアラブルヘルスモニター(または家電製品全般)のようなアプリケーションでは、4つの重要なレーザ要件を満たす必要があります。
低コスト
小型・軽量サイズ
低消費電力
信頼性
半導体レーザ(レーザダイオードとも呼ばれます)は、これらの要件をすべて満たすことができる唯一のレーザです。
ウェアラブルの現在・将来のアプリケーション例:
心拍数モニタリング
血中酸素濃度モニタリング
水分補給量モニタリング
血糖値モニタリング
乳酸モニタリング
疾患検出と個別化医療
VCSELのロードマップは消費者向けアプリケーションが中心
半導体レーザにはさまざまな種類があり、幅広い波長範囲で使用できます。現在、ほとんどの光センシングアプリケーションで最も一般的な半導体レーザは、VCSEL(「ヴィクセル」と発音)です。
他の半導体レーザに対するVCSELの主な利点は、上面から光を放射する点です。VCSELは、750 nm~1200 nmの近赤外(NIR)領域で使用可能で、高度な光学系を必要としない円形の光ビームを提供します。この特性により、多くのアプリケーションで統合が容易になり、総重量とコストを最小限に抑えることができます。
こうした利点から、VCSELは家電製品のさまざまなアプリケーションで幅広く使用されています。これらのアプリケーションは、光コンピュータマウスのナビゲーション、ゲーム機のボディトラッキング、スマートフォンやタブレットコンピュータの近接センサーや顔認識センサー、3Dスキャナーなど多岐にわたります。これらは自律走行を可能にする自動車のセンシングアプリケーションや、ドライバーと同乗者のモニタリングアプリケーションにも使用されます。さらに、VCSELは脳機能イメージング(fNIRS)にも使われ始めています。
余談として、VCSELはデータセンターの光通信にも広く使われています。VCSELの高速変調機能、統合の容易さ、優れたコストパフォーマンス比は、極めて高いバンド幅を必要とする短距離データリンクに最適であることが判明しています。これはまさにデータセンターが人工知能(AI)アプリケーションの爆発的な成長に対応するために必要とする機能です。
しかし現在、半導体レーザの最大の単独アプリケーションはスマートフォンの顔認識であり、これには940 nmの赤外光を発する2つのVSCELアレイが使用されています。規模としては、Coherentでは、すでに2,000億以上のVCSELエミッタを家電製品のアプリケーションに供給している実績があります。これは当社がVCSELの製造に多額の投資を行い、工場を新設および稼働し、ウエハの生産規模を75 mmから150 mmへ拡大したからこそ可能になりました。実際に、現在当社では成熟したプロセスを使用し、それに応じた高い歩留まりと経済的な製品を提供する、世界最大の垂直統合型VCSELメーカーとなっています。
VCSELのほかに、Coherentでは端面発光レーザ(EEL)といった別タイプの半導体レーザも製造しています。このタイプのレーザは、チップの側面からやや楕円形のビーム形状で光を放射します。端面発光レーザの主な利点は、アーキテクチャがさまざまな材料系に適合するため、異なる波長範囲を提供できることです。当社はガリウムヒ素、リン化インジウム、およびガリウムアンチモンをベースにしたEELを製造しており、750 nmの近赤外線(NIR)から短波長赤外線(SWIR)を超え、最大3000 nmの中赤外線(MIR)の波長範囲に対応しています。より長めの波長範囲(SWIRおよびMIR)は、光が人体に存在する生体分子と相互作用するため、特にバイオセンシングアプリケーションに適しています。VCSELほど幅広くはありませんが、エッジエミッタも大量生産され、家電製品に使用されています。よく知られたアプリケーションはスマートフォンで、エッジエミッタにより最先端の近接センサーを実現します。
統合型サプライヤーによる統合型ソリューション(PIC)
VCSELなどの半導体レーザは、多くのウェアラブル医療用センシングデバイスに電力を供給する光源ではありますが、これは完全なフォトニックセンシングシステムの一部にすぎません。他にも光検出器(フォトダイオード)や半導体光増幅器(SOA)などの利得チップなどの主要コンポーネントがあります。
Coherentは垂直統合型のフォトニクスメーカーであり、これらのタイプの主要コンポーネントを大量に供給しています。当社はフォトニクス業界の他の関係者とともに、将来のアプリケーションはコンポーネントをシステムレベルで統合し、ウェアラブルエレクトロニクスに必要な小型フォームファクタを実現するために、ますますフォトニック集積回路(PIC)様式に依存するようになると考えています。PICは、エレクトロニクスの世界を支配する、ICに相当するフォトニック製品です。
Coherentは光通信アプリケーションでもPICを使用しているため、このトレンドに対応できる有利な立場にあります。
バイオセンシングの未来がここに
要約すると、ウェアラブルデバイスには新たなバイオセンシング機能が追加されるようになります。新機能の多くは、半導体レーザ光源を使用した光センシングに基づいています。
Coherentは、すでにEELとVCSELの両方を家電業界へ大量に供給している半導体レーザの垂直統合型メーカーとして、こうしたアプリケーションに対応できる有利な立場にあります。さらに、当社のポートフォリオと専門知識には、フォトダイオード、利得チップ、フォトニック集積回路など、バイオセンサーの製造に必要な補完的技術が含まれます。