レーザで自動車の公害にストップをかける

新しいレーザクラッディング(肉盛り)により、保護金属層を形成することで、ディスクブレーキからの微粒子発生を大幅に低減することができます。

2022年4月25日、Coherent

EHLA Laser Cladding

自動車から排出される小粒径粒子の21%は、テールパイプではなく、ブレーキから排出されていることをご存知ですか。これは、ディスクブレーキを使うたびに、ブレーキローターとパッドが少しずつ摩耗していくからです。この磨耗物質のうち、直径10 μm以下の粒子(PM10と呼ばれる)が空気中に浮遊することがあります。しかし、テールパイプ排出ガスとは異なり、この排出量を簡単に測定する方法はなく、さらに重要なことは、排出量を制御する手段もないことです。

ブレーキングが困難

ディスクブレーキローターの多くはねずみ鋳鉄でできています。この材料は、ブレーキ部品がしばしば到達する高温に対応でき、比較的安価です。しかし、ねずみ鋳鉄は摩耗しやすく、先に述べたような微粒子が発生します。さらに、腐食も発生します。 

そこで、ブレーキローターの表面にステンレスなどの硬い素材を薄くコーティングし、摩耗と腐食から保護することが考えられます。しかし、このようなコーティングをするために通常使われる技術は、ディスクブレーキでは役に立ちません。たとえば、電気メッキや溶射で作られた皮膜は、金属学的にねずみ鋳鉄と結合しません。つまり、欠けたり、剥がれたりすることがあるということです。加えて、これらの方法は導入にコストがかかります。

従来のレーザクラッディング(肉盛り)(レーザマテリアルデポジション、LMDとも呼ばれる)でも、その答えは得られません。これは、部品表面にステンレス鋼の粉末を蒸着し、高出力の半導体レーザやファイバーレーザで粉末と部品の両方を溶かす技術です。これは再凝固して、基材と強い金属学的接合を持つ新しいコーティング層を形成します。 

しかし、レーザはねずみ鋳鉄を十分に溶かし、その炭素の一部が鋼鉄の皮膜に移行することもあります。そうすると、コーティングがもろくなったり、クラックなどの欠陥が生じたりして、部品の寿命が短くなる可能性があります。

サイクルにブレーキをかける新しいレーザクラッディング(肉盛り)技術

Fraunhofer ILTレーザ技術研究所とRWTHアーヘン大学(ともにドイツ、アーヘン)の技術者グループは、その解決策となる新しいレーザ材料成膜加工方法を開発しました。この方法は、Extreme High-speed Laser Material Deposition(ドイツ語の頭文字でEHLA)と呼ばれ、レーザクラッディング(肉盛り)にいくつかの重要な革新的技術を導入しています。

EHLAは従来のLMDと同様に、ディスクブレーキの表面に粉末状の金属を吹き付け、高出力の半導体レーザで両者を溶かします(HighLight DLシリーズ)。しかし、EHLAではカスタム設計のノズルを使用し、クラッディング(肉盛り)パウダーが部品表面に到達する前にレーザビーム内で「その場で」溶融されるようになっています。そのため、液滴は溶けたねずみ鋳鉄のごく薄い層になって部品に付着します。そして、この金属が急速に再固化し、薄い皮膜を形成します。

EHLAは、ブレーキローターから相当量のカーボンがコーティングに移行するほどには加熱されません。そのため、素材そのものの変更で起こりうる問題をすべて回避することができます。しかし、金属学的に接合された強固で薄い層を作ることができます。また、従来のクラッディング(肉盛り)に比べ、粉の使用量も格段に少なく、スピーディーです。これらのことから、自動車メーカーにとって実用的な加工方法であると言えます。

成功へのレシピとなるEHLA

EHLAは、用途の正確な要件に合わせることができる柔軟な方法です。たとえば、ガソリンエンジン車用のブレーキをコーティングする場合は、2種類の層を蒸着するのが効果的です。最上層は、鉄にタングステンカーバイドやチタンカーバイドなど、非常に硬い素材を組み合わせています。EHLA用クラッディング(肉盛り)ノズルは、一度に複数の粉末材料を使用できるように特別に設計されています。

この層を作るとき、硬い素材が溶けないようにレーザの出力を設定します。その際、まるでマフィンの中のブルーベリーのように、小さな粒子が鉄の固い層の中に埋め込まれます。これにより、非常に耐摩耗性の高い表皮を実現しています。

しかし、この外層は脆いため割れやすく、その後に水分を含んでブレーキを腐食させることがあります。そこで、まず下地にただの純ステンレス鋼を貼り、ブレーキローターに水分が到達しないように「密閉」します。

電気自動車(EV)のブレーキパターンは、ガソリン自動車とは大きく異なります。特に、回生ブレーキの使用により、ブレーキをあまり使わなくても車が減速するため、摩耗が少なくなります。実際、EVは摩耗が非常に少ないため、パーティクルの発生よりもブレーキの腐食の方が大きな問題となります(ガソリン車では頻繁にブレーキをかけることでローターの表面の腐食部分は摩耗するため)。 

この場合、EV用ディスクブレーキのコーティングには、別のレシピを使用することができます。すなわち、単一の純ステンレス鋼の層であっても腐食から保護するのに十分であり、かつ十分なレベルの粒子低減を実現できます。 

EHLAは、従来のレーザクラッディング(肉盛り)よりも高速で、金属粉末を効率的に利用できるため、コスト効率が高いのが特長です。さらに、ねずみ鋳鉄やステンレスだけでなく、さまざまな素材に対応できるのも魅力です。この技術が、やがて他の製造業の分野にも広がっていっても不思議ではありません。 

EHLA加工方法による金属コーティングの均質性(例 : ブレーキディスク)をご覧ください