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トロント大学: マルチフォトン顕微鏡を用いたゼブラフィッシュにおける社会的行動の解明
課題
トロント大学Hospital for Sick Childrenの神経科学研究者、ニール・メロビッチ氏(博士号取得候補者)は、ジストニアという運動障害を患った自身の経験から、この分野の研究に意欲的に取り組んでいます。 「現在私たちは、ゼブラフィッシュにおける社会的行動に焦点を当てて研究を行っています。ゼブラフィッシュは、神経系が単純でヒトと似た遺伝子を持つため、神経科学の研究モデル生物として最適です。 社会的認知に関わる特定の脳領域を調べ、脳内結合の強化・弱化が、どのようにして認知の過程で起こるかを解明すべく、仲間たちと取り組んでいます」と同氏は述べます。また、この分野の研究では、脳内結合の形成・修復に重要な役割を果たすことが明らかになっている、コフィリンというタンパク質を過剰発現させるトランスジェニックのゼブラフィッシュが用いられていると同氏は説明します。 このタンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)と融合すると、蛍光顕微鏡での観察が可能になります。 つまりメロビッチ氏は、GFPレポーターを使って、社会的記憶に関連する結合の変化を画像化しようと考えたのです。 社会的記憶は、他者の区別(たとえば新しいゼブラフィッシュと既知のゼブラフィッシュの区別)など、社会的相互作用の過程で形成されるものです。 関連する実験では、GFPよりも長波長で蛍光レポーターが使用されます。
ソリューション
メロビッチ氏は、研究技術者のジョージアナ・ファーガソン氏およびダフネ・タム氏と協働し、理想的な研究ツールを入手しました。 それが、Coherent社製レーザを2台搭載した最新鋭のマルチフォトン顕微鏡でした。 最適なGFPの二光子励起を実現する920nm出力の固定波長Axonレーザと1040nmの追加固定出力が可能なChameleon Discovery NXを併用することで、赤色蛍光レポーターの二光子励起に必要な長波長で十分な出力を獲得できます。 両レーザにはTPC(Total Power Control)内蔵機能が搭載されており、レーザ出力を高速に直接制御できるため、深層イメージングや高速スキャン時のブランキングが簡易化されます。
同氏は、この種のリアルタイムイメージングでAxonとDiscoveryを使用することの主な利点の1つとして、光学性能(波長調整や出力など)の他に、このTPCを挙げています。 加えて、Coherent社との交換サービス契約の重要性についても言及しており、「いずれかのレーザに問題が発生したら、Coherent社が直ちに交換用レーザを発送してくれるため、基本的にダウンタイムは生じません。これは非常に心強いです」と述べています。
成果
2022年現在、メロビッチ氏は、この多機能顕微鏡から得られた新しいデータの収集、解析にすでに取り組んでおり(下図を参照)、次のように述べています。 「神経発達障害や知的障害に見られる社会的記憶障害の神経学的基礎を解明する上で、この研究が大きな助けとなることを期待しています。 ジストニアの研究が私を救ってくれたように、いつか誰かの役に立つと信じてこの研究に取り組んでいます」
「いずれかのレーザに問題が発生したら、Coherent社が直ちに交換用レーザを発送してくれるため、基本的にダウンタイムは生じません。これは非常に心強いです」
- カナダ、トロント大学研究員ニール・メロビッチ氏
図1:トロント大学では、波長可変レーザ(Coherent Discovery)と固定波長レーザ(Coherent Axon)の2つの光学装置からなるマルチフォトン顕微鏡を採用しており、テーブルのスペースが奪われることなく、最大限の柔軟性を備えたイメージングが実現できます。 写真提供:トロント大学、ニール・メロビッチ氏。
図2:ゼブラフィッシュ成体の前脳の再現画像。 高濃度で棒状構造を形成することが明らかになっているタンパク質、コフィリン(GFPと融合)を過剰発現しているトランスジェニック神経細胞。 940 nmで励起されるGFP。 励起ソース: Chameleon Discovery TPC。 最大値投影Zスタック(23スライス、各2uM)の画像。深さで色分け。 画像提供:トロント大学、ニール・メロビッチ氏。