レーザエッチングとは?
レーザエッチングは広い意味を持つ用語であり、さまざまな種類のマーキングや浅彫りの加工方法を意味します。対象となる製品は、自動車部品、医療機器、ワイン樽、マイクロエレクトロニクスコンポーネント、墓石などさまざまです。
レーザエッチングは、さまざまな素材にマークやパターンを作成する方法です。マーキングや彫刻とは違い、実際の「エッチング」の定義は素材や用途によって異なります。
一般に、 レーザエッチングはマーキングとは異なり、部品の表面の色や質感に変化をもたらすだけでなく、その表面形状を変化させます。しかし、表面を隆起させたり陥没させたりするこの形状の変化は、レーザ彫刻に比べると概してかなり浅いものになります。
レーザエッチングは、他の多くのマーキングや彫刻、切断加工と同じ方法で実施されます。よって、単一のレーザツールで、これらすべての加工を行うことは決して珍しいことではありません。
レーザビームを変調させながら(出力を変化させながら)部品表面をスキャンすることで、目的のパターンを形成します。この動きを作り出す1つの方法が、ガルバノスキャナーシステムです。このシステムでは、ミラーの動きがビームの進む方向をコントロールします。この方法は高速であるため、小さな部品によく使われます。これは(部品の回転運動と組み合わせることが多い)湾曲した部品のエッチングにも適した技法です。
また、ビーム伝送オプティクス(あるいは部品自体)をリニアモーション(直動)ステージを使って動作させ、マーキングパターンをトレースすることも可能です。看板やモニュメントなどの大型の部品は、ほとんどすべてがこの方法を使ってエッチングされています。
素材の種類
レーザエッチングは、ほとんどすべての種類の素材に施すことができます。これには、金属やプラスチック、ガラス、セラミック、天然石、半導体などが含まれます。
金属部品のレーザエッチングは、自動車や航空宇宙、医療製品、石油、ガスなど、多くの産業で行われています。アルミニウム、スチール、真ちゅう、銅、チタンなど、ほぼすべての金属を加工できます。
金属のレーザエッチングでは、通常、素材に溶解が起こり、わずかに膨張するまで加熱します。この短いレーザ加熱サイクルが実行された後、素材はすぐに冷却されます。それが再度固化して、以前よりも粗面化された隆起部分を形成します。
金属の場合、レーザエッチングによる表面高の変化は、通常約25μm以下です。それに対してレーザ彫刻の場合、深さが10倍になることがあります。つまり、より多くの素材を削る必要がある深いレーザ彫刻より、レーザエッチングの方がより短時間で加工が可能です。
レーザエッチングのもう1つのメリットは、エッチングマークの濃淡を調整したり、陰影を表現したりできることです。レーザ彫刻では、濃い(暗い)マークしか加工できません。ですが、浅彫りのエッチングマークは、彫刻したマークほどの耐久性や耐摩耗性を持ち合わせていません。
ガラスには、装飾的および商業的な両方の目的でレーザエッチングが施されます。グラスやマグカップ、ボトル、表彰楯、鏡などには、文字やデザイン、画像を含む複雑なパターンをエッチングすることができます。工業分野においては、飲料や医薬品などガラス製の容器で供給される多数の製品に、ロット番号や使用期限などの情報がエッチングで刻印されています。同様に、マイクロエレクトロニクスやディスプレイの製造に使用されるガラス基板にも、シリアル番号やトラッキングコードをエッチングすることができます。
ガラスにレーザ加工を施した部分は半透明な「すりガラス」のように見えます。これは、表面から通常25μm以下の非常に微量の素材を除去することで実現されます。そしてエッチングによって、加工表面が粗面化するのも特徴です。
レーザエッチングは、他の機械的および化学的なエッチング手法と比較して、高速かつクリーンで、(ワイングラスやボトルなどによく見られる)曲面での表面加工が容易であるというメリットがあります。
花崗岩や大理石などの天然石へのレーザエッチングは、墓石や楯、建築目的に広く利用されています。これは、ガラスエッチングと同様に、素材の表層を微細に削って表面の質感を変化させています。
レーザエッチングでは、ほとんどの場合、濃い色の石面に明るい色のマークを彫ります。レーザエッチングパターンは、新聞に掲載する写真の複写と同じように、多数の近接する小さなドットの配置で表現されます。この方法なら、ほぼすべてのパターンのエッチングが可能で、グレースケールで表現することもできます。つまり、文字だけでなく、写真や絵などのデザインも容易にエッチングできるのです。
石材へのレーザエッチングは、サンドブラストや機械的な彫刻に比べて緻密なマークを彫ることができます。また、他の方法よりはるかに高速です。
ポリマー素材へのレーザエッチングは、商業製品や医療製品、消費者向け製品、看板やノベルティグッズなど、非常に幅広い分野で行われています。ポリマー素材のレーザエッチングは、素材や加工方法が非常に多様であるため、マーキングや彫刻との違いを正確に定義することは困難です。一般的に使われている「発泡」手法は、濃い色のプラスチックに薄い色でマーキングするものですが、わずかな表面レリーフ(50μm以下)を作るため、エッチングの一種とみなすことができます。
レーザエッチングは、ポリマー部品に大きな熱を加えることなく、コントラストの高いマークを作ることができるため、半導体製造やマイクロエレクトロニクス製造の分野でも非常によく利用されています。回路にダメージを与えることなくマーキングできるフリップチップやその他の半導体パッケージングなどが、この一例です。
半導体そのもののレーザエッチングは、マイクロエレクトロニクス製造のあらゆる場面で利用されています。これは、マークの深さが10μm以下と浅いためコントラスト比が高く、周囲の回路やその下の回路にダメージを与えないからです。レーザエッチングは、特にウェハ裏面にシリアル番号やその他の識別情報をマーキングするのに有効です。また、パッケージされた機器の薄型モールドキャップにも使用されます。
エッチング用レーザ
エッチングが施される素材は多岐にわたり、要件も多様であるため、さまざまな種類のレーザが使用されます。代表的な例として、以下が挙げられます:
ファイバー |
ファイバーレーザの近赤外線出力は、ほとんどの金属の吸収特性とよく適合するため、これらの素材の主要なエッチング手法になっています。また、セラミックや一部のポリマー素材のエッチングも可能です。エッチング用ファイバーレーザは、他のアプリケーションと同様のメリットをもたらします。これらには、低所有コストや高信頼性、長寿命、優れたビーム品質、導入の柔軟性などが挙げられます。 |
CO2 |
CO2(炭酸ガス)レーザは、ほぼすべての有機物に吸収される遠赤外線出力です。これは、木材や多くの種類のポリマーなどの素材のエッチングに理想的です。CO2レーザは、天然石のエッチングにも広く利用されています。 |
DPSS |
LD励起固体レーザは、緑色レーザやUVレーザで高出力を実現し、優れたビーム品質を備えています。これは、次の2種類の特殊なエッチング用途に望ましいレーザです。1つ目は、長波長で吸収しにくい素材のエッチングです。これは一部のポリマー素材に当てはまります。 2つ目は、薄い素材や感熱素材を含む用途です。一般に、ほとんどの素材はより短波長(特にUV)において高い吸収を示すため、レーザ光は比較的浅い深度で完全に吸収されます。その結果、周辺エリアへの加熱が抑えられます。このため、LD励起固体レーザエッチングは、半導体製造やパッケージング、その他のエレクトロニクス部品の製造、医療製品、ディスプレイなどで利用されています。 |
半導体 |
半導体レーザの波長は、青色から近赤外線まであり、金属・非金属を問わずさまざまなエッチングを可能にします。ビーム品質とコスト面で優れているという2つの特徴から、主に小規模な加工工場、楯および表彰メーカー、ホビーユーザー向けの安価なエッチングシステムに非常に適しています。 |
Coherentのレーザエッチング製品
Coherentは、3種類のレーザエッチング製品を提供しています。1つ目は、ファイバー、CO2レーザ、LD励起固体レーザ、半導体レーザを含むレーザ光源です。これらは、独自のエッチングシステムの構築に役立ちます。
また、エッチングサブシステムも提供しています。具体的には、PowerLineシリーズは、レーザと高性能スキャン、ビーム伝送オプティクス、ドライブエレクトロニクス、強力な制御ソフトウェアを組み合わせています。これは、高速かつ柔軟で正確なエッチング、マーキング、彫刻プラットフォームを実現します。PowerLineシリーズの製品は、ほぼすべてのレーザ光源を供給できるため、システムビルダーと生産ライン統合などの広範な用途に理想的です。
最後に、Coherentはレーザエッチングのための完全なツールを豊富に取り揃えています。筐体へのレーザエンジンの組み込みやユーザーインターフェースの提供を始め、部品ハンドリング、ビジョン、接続オプション、プロセス監視などを含むさまざまな機能を搭載することができます。複雑なレーザエッチング作業も、ボタンを押すだけで簡単にできるようになります。