天文学レーザとは?
レーザによって天体をより精密に観測することができるため、レーザは天文学者にとって欠かせないツールになりました。特に、レーザは遠くの星や銀河などの天体を従来よりも優れた画像で撮影することを可能にしました。
レーザは、天文学のいくつかのさまざまな分野で使用されています。最も一般的には、大型天体望遠鏡の撮像品質と能力を向上させるためのさまざまな技術に採用されています。一方で、重力波検出や他の用途に不可欠の要素でもあります。
レーザガイド星
望遠鏡で天体を高解像度で撮影する際の大きな制約として、地球大気の影響でぼやけてしまうことが挙げられます。特に、望遠鏡上空の気柱の乱れや温度変化により、天体から届く光の波面がゆがむため、完全に鮮明な画像を形成することができません。
これを最小限に抑える、または完全に回避するやり方には、望遠鏡を非常に高い山の頂上に設置する方法や宇宙空間に設置する方法があります。しかし、最も標高の高い山に望遠鏡を設置したとしても、望遠鏡の性能は「天体シーイング」と呼ばれるものによって依然として大きく制限されます。
天体シーイングの問題を最小限に抑える方法の1つに、天文学者が開発した、補償光学(AO)があります。これは、望遠鏡の光路上にあるフレキシブルミラーや変形可能なミラーを使って、波面の形状をリアルタイムで調整して、大気のゆがみを補正します。
補償光学は、星がきわめて遠くにあるために点光源に見えて、波面が完全に平らになることを利用しています。つまり、実際に星からの波面を測定し、平らな状態からどれだけ離れているかを計算します。その後、この情報は、変形可能なミラーに形状を変える方法を伝えて、波面を補正して平坦に復元するために使用されます。
補償光学系は、急速に変化する大気のゆがみを補正するために、1秒間に何千回もの調整を行うことができます。その結果、従来の望遠鏡に比べ、天体のより鮮明で、より詳細な画像を得ることができます。
しかし、AOシステムは、かなり明るい星でないと正常に動作しません。望遠鏡を空のどこに向けているかに応じて、視野内に十分に明るい星がある場合もあり、ない場合もあります。十分に明るい星がない場合は、レーザを大気中に照射して人工のガイド星を作ることができます。そして、レーザガイド星(LGS)は、補償光学系の基準波面として使用することができます。
LGSを実際に作るには、2つの異なるアプローチがあり、それぞれ、実際にどのように実施されるかは千差万別です。最も広く使われているのは、589 nmで発光するレーザを用いて、大気中の高度約90 kmに存在するナトリウム原子を励起する方法です。ナトリウム原子はレーザ光を吸収して再放出し、LGSを生成します。
2つ目の方法は、「レイリービーコン」と呼ばれるものに依存しています。この方法では、通常、紫外線レーザを用いて、大気圏の約15~25 km上空にある分子から散乱光を発生させます。レイリービーコンは組み立てがより簡単で、より安価ですが、ナトリウムLGSアプローチのような波面基準を提供することはできません。理由は、レイリービーコンLGSが大気圏内のかなり低い位置に現れるためであり、そのため、天体からの光と同じようなゆがみが発生することはありません。
複数望遠鏡による干渉計
望遠鏡の画質を向上させるもう1つの方法は、口径を大きくすることです。これは、望遠鏡が大きいほど、光回折による画質への悪影響が少なくなるためです。そのため、大型の望遠鏡では、より詳細で明るい画像を得ることができます。
しかし、実用面では、望遠鏡の大きさには限界があります。これを回避する1つの方法は、複数の望遠鏡からの光を組み合わせて、より大きな、つまりより高解像度の機器をシミュレーションすることです。
光を組み合わせるには、望遠鏡が物理的に近接している必要があります。その後、個々のビームを非常に高い精度で組み合わせる必要があります。具体的には、それぞれの望遠鏡から再結合ポイントまでの距離が、ごくわずかな光の波長の範囲内で、同じ長さであることが必要です。可視光の場合、波長は約0.5 μmです。
しかし、各望遠鏡の光路が名目上同じであっても、実際の熱膨張や振動の影響により、全経路長の時間変化誤差が生じて、必要な値よりはるかに大きくなります。これを補正するために、各望遠鏡のビーム経路に「遅延線」が使用されます。これにより、それぞれの総経路長を微細かつ高精度に調整して、すべての距離を同じにすることができます。
複数の大型望遠鏡を組み合わせる際は、遅延線を実装するためのさまざまな方式があります。多くの場合、これらの方式では、レールの上に設置した複数のミラーでビームを跳ね返します。これにより、光軸に沿ってミラーを移動することができます。ミラーの位置を変えることで、遅延線の長さを調整します。
この技術の成功の鍵は、波長の数分の一の精度(可視光では数十ナノメートル)でミラーの位置を測定できる能力です。レーザ干渉計による距離測定は、これを実現するための究極の高感度な手段です。一般的には、線幅が比較的狭い、低出力で連続発振の可視波長レーザを使用します。これにより、数メートル以上の経路長で干渉を起こさせるために必要なコヒーレンス長を確保することができます。
レーザのその他の天文学的応用例
天文学内での、レーザの他の応用例はかなり多くあります。たとえば、レーザ干渉計は重力波天文学の基礎にもなっています。
しかし、レーザ干渉計重力波観測装置(LIGO)の場合(実際にはワシントン州ハンフォードとロサンゼルス州リビングストンにある2つの別々の観測所)、その精度と感度は、これまでに実現したものをはるかに超えています。
これらの施設では、それぞれ約4 kmの長さのアームを持つL型干渉計が使用されています。LIGOは、2本の干渉計の脚間の経路差の変化を、陽子の直径の1000分の1以下の距離まで測定できるほど高感度です。これは、ブラックホールが衝突したときに発生する重力波(時空の小さな波紋)を測定するために必要です。
実際は、LIGOにはかなりの数のレーザとレーザ増幅器が組み込まれています。干渉計のメインビームは、Coherent Mephistoで生成されます。このレーザが選ばれた理由は、非平面リングオシレータ(NRPO)を採用しているためです。NRPOは、最低の光ノイズと最狭の線幅を備えた連続発振レーザアーキテクチャとして広く認められています。Mephistoの出力は、増幅、光ノイズの低減、周波数、パワー、横モード構造の安定化のためにいくつかの段階を経ます。
また、レーザは地球から月までの距離を測るためにも日常的に使われています。アポロ計画のうちの3回のミッションや、その後のロシアの2回の月探査で探査機が月面に残した反射鏡のアレイに、レーザを反射させることで距離を測っています。飛行時間や旅程からわずか数ミリの精度で距離を算出することができます。
レーザは、NASAの探査機「パーサビアランス」でも火星に達して活躍しています。この探査機は、レーザを使って火星の少量の岩石を蒸発させます。これにより、プラズマが発生して発光します。この光の分光分析により、岩石の化学組成が明らかになります。
図1. NASAの火星探査機「パーサビアランス」のレーザで火星の岩にできた一連の穴。写真提供元:NASA/JPL-カリフォルニア工科大学/ASU。
まとめると、天文学レーザは研究・観測の進歩において重要な役割を担っています。 これらのレーザはこの先何年も、新技術の開発において重要な役割を果たし続けるでしょう。